総務省主導によって導入されたいわゆる「分離プラン」によって、通信回線契約と端末購入代金の抱き合わせて端末価格を安く見せかけていた販売手法が禁止され、回線契約は回線契約、端末購入は端末購入で個別に提示・契約しなければいけなくなりました。
一見、大幅な値引きが付いて端末を割安に購入出来た従来プランに比べ、端末販売時の値引き額は最大で2万円となった新制度移行後は、端末の購入金額が高止まりしている状態が続いています。
実際には、2年縛り付の回線契約で得られるプラン料金を原資にした値引きなので、実は値引きではなく、ユーザー自身が割高な回線使用料の一部で端末が割安に見せかけられていただけなのですが、端末代金だけを比較してしまうと「スマホが高くなった」という印象になってしまう事は否めません。
そんな中、iPhone X以降の高級・高価格戦略で世界的に販売数を落としたAppleが、低価格戦略を着々と進行させています。
今回は、高価格モデルはそのままに、徐々に拡充しつつあるAppleの低価格戦略を考えます。
現在のスマホ、特にiPhoneはAndroidスマホに比べて割高なイメージがあります。
Androidスマホは、AndroidというOS(スマホの基本動作を司るオペレーションシステム)をGoogleが開発し、それを使って、スマホメーカー各社が自由に自社独自のAndroidスマホを製造・販売しています。
Android-OSを使って高級・高価格のモデルを作る事も、低価格のエントリークラスの端末を作る事もでき、その全ては端末製造メーカーの考え方や、ターゲットにするユーザー層の想定にかかっています。
そのため、非常にバリエーション豊富で、各メーカーの考え方や開発力の違いでメーカー各々の特徴が色濃く出る事が特徴ですが、その反面、各社のモデルや機種名などに統一性がなく、型番を聞いただけではどのような端末なのかを把握する事ができません。
これに対してiPhoneは、「iOS」というOS(オペレーションシステム)を搭載していますが、OSも端末本体もAppleが1社で開発・製造・販売を行うため各モデルに統一性があり、操作性やUI(ユーザーインターフェイス)にも共通性が見られ、モデルを買い換えても基本動作や基本操作で迷う事がありません。
また、発売時期やモデルの型番等でどのような機能・性能をもっているのかの基準が明確です。
そのため、Appleが「高級・高価格帯路線で行こう」と決めてしまうと、全てのモデルがそちらね「右倣え」をしてしまう傾向にあり、その戦略が外れると一気に販売量が減少してしまう傾向にあります(もちろん当たれば大ヒットになる側面も持ち合わせています)。
それが如実に表れたのが、2017年発売のiPhone Xから、翌2018年発売のiPhone XSの一連のiPhoneは、XR 64GBモデルを除く全てのiPhoneが10万円超の高級・高価格帯のモデルでした。
折からの米中の貿易摩擦にも多分に影響された部分はありますが、販売量はAppleの見込みを大きく下回りました。
iPhone XRは、Appleとしては「廉価版」の位置づけでリリースしたものと思いますが、8万円台は、ユーザーには廉価とは認識されにくいプライスでした。
Appleは、「スマートフォンの普及はすでに飽和状態だから、数を売る戦略から、数を減らしても高級・高価格帯のモデルを売った方が最終的な利益は多くない」といった算段でiPhone X~iPhone XSを発売したはずですが、2018年~2019年前半のAppleの売上下降は、世の中はAppleが思うようには動かなかった事の証左ではないかと思います。
それでも、各国でiPhone XRは売れないながらも最も好成績を収めた事から、Appleは、2019年のXR後継機であるiPhone 11の価格を、XRを下回る金額に設定し、これが現時点では功を奏したと言える状況となっています。
少し話しは変わりますが、日本のモバイル通信を管轄する総務省は、格安SIMの拡充・育成と、中古端末の普及・市場拡大という2つの意思を以って大手キャリアに相対しています。
そのため、冒頭に述べたように様々な形で、大手キャリアに料金の値下げをさせようとしていますし、現在は、ほとんどを海外に売りさばいている下取りした中古端末を、何とか出回らせ、国内の中古端末市場を活性化・拡大しようとしています。
特に端末価格が割高なiPhoneは、中古市場が拡大すれば、割安な中古端末がユーザーに広く浸透すると考えているようです。
「大手キャリアはAppleと直接取引できるが、中小規模の格安通信はAppleとの直接取引ができないため、中古市場の活性化・拡大で、程度の良い中古iPhoneが手に入りやすくなり、格安SIMの契約者数も増加するだろう」といった感じです。
しかし、総務省の思惑通りにすんなり事が運ぶのでしょうか?
こちらは、2019年春に実施されたMMD研究所調べによる、日米の新品端末・中古端末の所有比率です。
日米とも、大多数のユーザーが新品端末を購入しており、友人・家族から譲り受けた数も含めて、新品端末ではない端末の所有者比率は僅かに6.8に過ぎず、日本人全体として中古端末の所有率はかなり小さい事がわかります。
米国の場合には、新品以外の端末の所有率は20.3%で、あまり多いとは言えませんが、約3倍の人が中古端末や譲渡端末を使っている結果となっています。
こうしたデータを見ると、中古端末に人気が集まるようであれば、いくら大手キャリアが下取り端末のほとんどを海外に売りさばいていたとしても、もう少し活況をていしているのではないか?という疑問が湧きます。
そもそも、日本人は中古の物品を購入するのが好きではないとすれば、いくら、iPhoneが割高だと言ってもそう簡単には中古端末市場に流れるとは思えないのですけれど…。
ただ一部には、中古端末市場の活性化に懸念を示す有識者も少なくありません。
それは、中古端末市場の活性化だけでなく、総務省が、大手キャリアの料金を値下げさせようとする事も同じですが、あまりに大手キャリアを絞めつけ過ぎると、将来への投資に回す資金が減ってしまうと元も子もないということです。
近い将来で言えば、5Gの問題がありますが、5Gサービスが始まったら一気にマックスまで通信速度や技術が上り詰める訳ではなく、研究開発を重ねながら進化してゆきますが、大手キャリアの懐があまりに寂しくなれば、そうした開発の遅れとなり、ひいては諸外国に負け、国力が低下する…といった、じり貧の将来もイメージできます。
当然、管轄する総務省ではその辺りまでしっかり念頭においた諸施策だと思いますが、少々心配になる事があります。
というのは、筆者の体験談なのですが、長年ガラケーを使い続けてきた両親(とうにシニア世代)が、2019年にやっとiPhoneに乗り換えてくれたのですが、両親に同じ端末を持たせる(説明が1回で済む)ために、1台は筆者の「おふる」、もう1台はフリマアプリで「中古iPhone」を購入しました。
そういうシーンでの中古端末購入はあるかもしれません。
筆者と筆者の配偶者(家内)は必ず新品のiPhoneを購入します。
これは前項のアンケート結果と一致するもので、メインユーザーの多くはやあり新品iPhoneの購入が多いのではないでしょうか。
しかし、その一方では両親に持たせる端末は「おふる」と「フリマ」で中古端末を持たせましたので、子供も含めて新品のiPhoneでは割高と感じる場合には、充分に中古市場を利用する可能性はあると思います。
最新鋭機は使いこなせないだろう…と思いますし、もし使いこなせるのなら新品端末の購入はそれからで良いでしょうし、使い切れずに放りだしても割安な中古端末なら購入者としてのダメージも少ない…といったような「計算」が働くからなのかもしれません。
2017年に発売となった「iPhone X」は、端末価格が初めて10万円を超える等、iPhone10周年だとは言え、あまりの高級路線に驚くと同時に、多くのユーザーをAndroid陣営へ去らせる結果となりました。
あまりに急な高級路線への視線を逸らせるために2018年に発売となった「iPhone XR」は、Appleが考える廉価版扱いのモデルでしたが、8~9万円という価格はユーザーには廉価版には見えませんでした。
そして昨年2019年には、XRから進化したはずの「iPhone 11」が、XRよりもさらに価格を引き下げ、74,800円という、iPhone6~iPhone 6s当時の価格設定となり、多くのiPhoneファンを喜ばせました。
このように、AppleはiPhone Xから始めた高価格路線への一本化を諦め、XR→11と繋がるミドルクラスモデルの展開を継続してゆきそうですが、実は、2020年モデルには、さらなる廉価モデルが存在するという噂が流れています。
Apple関連情報の正確性で著名なアナリスト:ミンチー・クオ氏を含め、複数のアナリストが予想しているのは、かつて、小型軽量場旧モデルの筐体に、当時の最新鋭機の機能・性能を盛りこみ、後に「小さな名機」と称されたiPhone SEの2020年バージョンです。
よく「SE2」として検索される、iPhone SEの後継モデルは、iPhone 8の筐体を再利用し、現時点での最新鋭機iPhone 11/11Proに採用されている「iOS 13」を搭載、ホームボタン装備でFace IDなし、シングルカメラながら、処理能力は最新モデル同等との噂ですが、なんとこのモデルの価格は、米本国で399ドルと予想されており、日本円換算で、4万円台での登場となるだろうと見られています。
⇒参考記事:iPhone SE2はiPhone 9なのか?iPhone SE2の噂まとめ
そうなると、現状の最も古いモデルのラインナップである「iPhone 8」と比べて、価格は大幅に割安となり、機能・性能はiPhone 11を踏襲となれば、おそらく爆発的な人気を博すのではないかと容易に想像する事ができます。
さあそこで、総務省の目論む中古市場の活性化ですが、iPhoneに関しては、噂通りに2020年春(3月が有力)にiPhone SEの後継モデルが4万円台で発売され、継続販売のiPhone XRが6万円台、2019年モデルのiPhone 11が7万円台でラインナップすれば、ミドルクラスを広くカバーする事になります。
現状、フリマアプリでの中古iPhoneの相場は、2016年発売でFelica・防水対応のiPhone 7が2万円台、現行ラインナップのiPhone 8が3~4万円といったところですが、噂のiPhone SE後継機が新発売4万円で登場した場合に、あえて、iPhone 7及びiPhone 8を購入するユーザーがはたしてどれほどいるか…と言う事が気になります。
こうした状況を俯瞰すると、総務省の分離プランに対抗すべく、一方では高性能・高価格モデル路線を維持しつつ、廉価版モデルの投入を含め、ミドルクラスを幅広くカバーするラインナップを図っているのではないかと思えます。
もし、噂通りにiPhone SE2が2020年3月に4万円台で投入されたとすると、iPhone 8はカタログ落ちするか、SE2を下回る価格に値下げされてラインナップに残るか、いずれかだと思いますが、「8」はSE2のベースモデルですので、両方をランナップする意味はないため、カタログ落ちが妥当でしょう。
iPhone SE2がストレージの違いで、64GBモデルが4万円台、128GBモデルが5万円台、仮に256GBモデルがあるとすれば6万円台という構成になりそうです。
iPhone 11、11 Pro 、11 Pro Maxは発売から半年ですのでまだ値下げをしないと見ると、iPhone XRの存在も微妙です。
SE2は、iOS13を積んだシングルカメラのモデルになりそうなので、同じシングルカメラのXRをラインナップに残すかどうか…です。
ただ、SE2はホームボタン装備の指紋認証モデルですので、全画面+顔認証モデルが欲しいユーザー向けには、6万円台で購入できるXRは選びやすい端末になるかもしれません。
1万円値下げし、64GBで5万円台になれば、これはこれで人気の選択肢になるかもしれません。
4万円 | 5万円 | 6万円 | 7万円 | 8万円 | 9万円 | 10万円 | 12万円 | 14万円 | |
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SE2 | 64GB | 128GB | 256GB | ||||||
XR | 64B | 128GB | |||||||
11 | 64GB | 128GB | 256GB | ||||||
11Pro | 64GB | 256GB | 512GB | ||||||
11万円 | 13万円 | 15万円 | |||||||
ProMAX | 64GB | 256GB | 512GB |
4万円~7万円程度のミドルクラスの価格帯を全て網羅し、ホームボタンの有無、指紋認証・顔認証のモデルを選ぶ事ができます。
Androidスマホの販売量が多いのは、やはり低価格モデルも、ミドルクラスも各メーカーのモデルが豊富に出揃っている事によると思いますが、Phoneも上記のようなラインナップなれば、かなり様々な層のユーザーを取り込む事ができるように思います。
総務省の思惑は実現されないかもしれませんが、手頃な価格で新品iPhoneが購入できる事はiPhone全体の活性化に大きな推進力になるはずです。
また、かつてのようなiPhoneのシェア7割なんて時代が再来するかもしれない…なんて事を思いながら、iPhone SE2の発売を待ちたいと思います。
ただ、困る事が1つ出てきます。
それは、iPhone SE2を買うのか、半年後まで待ってiPhone 12を買うのかの問題です。
オリジナルのiPhone SEの時もそうでしたが、結局、両方買ってしまったのですけれど。
参考URL:
https://mmdlabo.jp/investigation/detail_1795.html
画像URL:
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